人生という日常の合間に見つけた平凡な感動や、過ぎ去る時間のぼんやり思惑。 人生紀行

 
極早生みかん
No.120 誰がために実は染まる(1) 2008. 9.29

 朝晩の風が涼しくなってきたのを感じて、それだけで気持ちが幸せになってます。秋はいいね。
 秋の空気や光の具合は、落ち着きある透明感があって、そのせいでただ通り過ぎるだけの道端にも沢山の発見をしてしまう。
 長袖の服に袖を通すのが心地よくて、深い眠りと気分のいい目覚めが味わえる季節だ。そして多くの植物達が実のりを迎え、その一部からお裾分けしてもらえる収穫の季節でもある。
 栗、柿、梨、芋‥etc、色々な秋の味覚が楽しめる季節が今年もやってきた!
 うれしい気分に浸れるお店の果物のコーナーでは人心惑わす物が揃って‥結局、私の心を苦しめる。(財布の事情)
 特にあの緑と黄色がまだらのミカン。わずかな時期しか店頭に出ない“極早生ミカン(ごくわせみかん)”が放つ魅惑の力はすこぶる強い。(私はこの極早生ミカンが好きなんで‥)お店で、ネットや袋に入れられて並んだ極早生ミカンが視界に入ると、あのなんとも言えない鮮烈な香りを嗅ぎたくなって、つい手に取ってしまう。
 しかし、 皮を剥かないとあの匂いがして来ないので〔これは買うしかない‥〕と、値札の数字を読み取れば、足は減速。〔ちょっと待てよ。冷静になれ。〕と脳が指令を出して私は少し考える。
 
 視覚というものはいつも悩ましい欲を掻き立てるものだ。
 〔うーん、とりあえず保留。ミカンを見たことは忘れよう、忘れたい。気づかなかった事にしたい。いや、極早生のミカンが旨いなんて嘘。現にこれは外から芳しい匂いなんてほとんどしないじゃないか!全ては幻の記憶‥幻想が生んだ香りと味に俺は惹かれているのだ。さっき目にした物は、ただの可視光波長の一部が眼球内の網膜に当たっただけの科学的反応って奴だ。〕 1袋300円程度のミカンです。
 
 人により好き好きではあるが、やや酸っぱい極早生ミカンが私は好きだ(事実)。あの新鮮な青い香りと早熟なミカンの甘味と酸味、あれは何かこう、熟したミカンとは一線を画す旨さがある。個人的には違う果物だと言え(力説す)るんだ。
 
誰がために実は染まる(2)へつづく 
 

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