人生という日常の合間に見つけた平凡な感動や、過ぎ去る時間のぼんやり思惑。 人生紀行

 
制作中ひな壇
No.77 緋毛氈と伊賀まんじゅう(2) 2006. 3.20

 〔日本人形ってやや不気味なイメージもあるし、年に一度だけの雛祭りで飾るだけなのに、こんなに値段が高くて、保管に場所をとる大きなもの売れるのかな??〕
 ‥と、知りもしない人形業界の先細りを勝手に危惧してみる。
 とにかく一度本物の雛人形とひな壇をこの目でじっくりと見る必要がありそうだ。
 広告などの写真からでは分からない内部の構造や使用素材などを制作の参考にすることを最たる目的に、最寄の人形店へ向かった。
 人形店の前に着くとだんだんと緊張してきた。
 なんといっても日本人形の店なんて場所には初めて来たからだ。これまでの私にはまるで縁がない。しかも、制作におけるひな壇の構造とデザイン・価格の調査であるわけで、買うつもりなんて全くなく‥言わばスパイ行為。自転車に乗ってやってきたことも失敗だったと思ったが、無精ひげを剃ってないことも早まったか?人形を買いそうな身なり&素振りができてない。
 〔ま、詳しく見なくても大体は作れるだろうし、何もカッコつけなくても普通の客として見て回ればいいんだよな‥。〕
 そう思って入り口へ向かい歩き出したら、いつもの汚れた靴の横に穴が開いているのに気付いた。
 〔ヤベー、完全に場違いかも‥。とにかく急ぎ足で要点だけチェックすればOKだから、お店の人には近寄らずにサラリと済ませよう。‥よし、いざ!〕
 自動ドアを抜けて未知なる世界(人形店)へ足を踏み入れた。ひな祭り商戦へ向け入り口すぐから雛人形がずらりと陳列された店内は‥まずいことに他の客が全然いない。
 〔アワワ、土曜日なのに‥こ、これが人形屋というものなのかー!?〕
 ‥と思ってみたものの、正月明けの早々に人形を買い求めに来る人は少なくて当然だろう。やや控えめに和風な音楽が流れ、それ程広くない店内には私ひとりしか客がいない。店員さんも一人。
 〔とにかく調査、調査。お店の人にしつこくセールストークされる前に細かな部分を見ておかねば‥。〕
 折りたたみと組み立てに関する構造・裏と内部の様子・サイズ・造作の仕口・装飾に使われる素材・デザイン・価格‥、本当なら巻尺を手に取りノートを広げて何種類ものひな壇についての情報をメモしたいところだが、それは意気地なし(?)の私にできそうにない。それどころかひな壇の裏や側面ばかりを気にして見ているのも気まずい。
 メモは無いが店員の視線を避け、隙を伺いながら数種類の壇から構造を見て目に焼き付ける。
 
緋毛氈と伊賀まんじゅう(3)へつづく 
 

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