人生という日常の合間に見つけた平凡な感動や、過ぎ去る時間のぼんやり思惑。 人生紀行

 
塗装前
No.78 緋毛氈と伊賀まんじゅう(3) 2006. 3.27

 重厚な色でどっしりとした感じのする木目調のひな壇でも思ったより簡単に組まれているのには少し驚いた。まぁ、軽い人形を乗せるだけだから、壇の強度は形を留めて立っていられれば充分ということだ。
 裏と側面など、ひな壇飾りとして見えない部分のコストダウン方法は勉強になる。その分、前面や人形が乗る上部の装飾や素材にはコストがかかっているし凝っていた。部分的に畳敷きだったり、ふすま絵や金粉を散らした蒔絵など簡単には同じ真似はできなさそうだし、使用してある同様の材料を揃えることだけでも骨が折れそうだ。
 〔フムフム‥。〕
 写真で見ていたものの、やはり実物を目の前にするとその豪華さはさすがだ。人形・着物・小物・壇・屏風‥、それぞれが分業したプロフェッショナルの総合芸術品になるわけで、ひな壇全体からウットリする空間を回りに拡げ放っている。当然大型なものほど値が高いが、高価なものになればなるほど様々な趣向も多く、繊細な装飾と大きな迫力が相まって見ていて飽きない。
 〔なるほど、この雰囲気こそがひな壇の魅力になるわけか。値段は高いが、欲しくなる気持ちも、子どもにその美しさに触れさせてやりたいという親心も納得だ。〕
 
 ひな壇の雅な様子に見入っていたら、女性店員が近づいてきた。
 『(前にある雛人形を指して)ここら辺の大きさのものが最近は人気がありますね。』と店員。
 至近距離で目もあわせてしまっているし、こうなると無視してやり過ごすことはできない。‥とは言え、どれだけ敏腕セールスをされても買えるお金もその気も全くないから今の私に怖いもの無しだ。それに構造などの調査は大体済んだ。あとは壇だけの購入価格や、その他情報が何か聞ければありがたいので少し話してみても悪くない。
 「最近は木目調が主流なんですね。‥こういうのは壇だけでも販売してるんでしょうか?」と私。
 『はい、別売りもございますよ。』
 「壇だけの値段はどれくらいでしょうかね?」
 『壇だけでも値段は全体のサイズによって違ってくるので一概には言えません。既にお人形はおもちなんですか?』
 「あーまぁ‥、人形だけはあって壇が‥その、(友人の話では)壊れて無くしたものですから‥。」
 『親王台の大きさで壇のサイズがわかりますので、一度親王台をお持ちいただけるとよろしいのですが。』
 「え!あ?、そうなんですか?!へぇ〜。‥あの、参考までに、例えばこのサイズ(前にある壇を指して)の壇だけなら値段はどれくらいですか?」
 『‥えー、そうですねぇ、今社長が外出して詳しい値段が分からないので、もうすぐ戻ってきますから‥少しお待ちいただけますか。』
 「あ、はい‥。〔ムム、手ごわいな‥。〕」
 『人形は、奥様のものですか?』
 「‥、そうです。(他人の奥さんですけど‥)」
 
緋毛氈と伊賀まんじゅう(4)へつづく 
 

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