人生という日常の合間に見つけた平凡な感動や、過ぎ去る時間のぼんやり思惑。 人生紀行

 
月
No.62 月に想えば 2005. 8.22

 月を見ていた。
 
 満月の白い月。
 
 月面に見える黒っぽいシミは、海と呼ばれる比較的平坦な地形の部分で、世界各地で色々な模様に捉えられている。カニ、女性の顔、ライオン‥。日本では兎が餅をつく姿として一般的に言われているが、じっと見ているとそう見えそうで、見えないようで‥。
 月に兎が居るという話があるが、それは仏教によって広まった“説話(≒おとぎ話)”で、台湾・中国・韓国などでも同じように説話として広く知られているようだ。
 それにしても、月のシミ模様を兎が餅をつく姿と捉えた人の発想はなんともメルヘンで、クレータと岩石だらけの月面に兎が居る姿というのも想像すると微笑ましい。
 
 夏の終わりが近づいた夜の空気は少し涼しかった。
 
 ここから38万km離れた何もない空間に地球の1/4サイズの巨大で超重量の丸い石の固まりがポッカリと浮かんでいることを理解しようとしてみるが、理科の教科書に載っている図やNASAの鮮明な月面映像が頭に浮かんでも、理解を超えた宇宙の前に自分の存在の方が摩訶不思議に思えるだけだった。
 
 みんなどうしているのかな‥。
 
 ちっぽけな自分が生きて出会えた人々がいるこの地球の今この瞬間、重力を無くした想いが一つ頼りなく漂っていた。
 もうすぐ日付が変わり、新しい一日が始まる。明日は穏やかな一日の始まりを感じたいと思って、暖かな思いだけを胸にして眠りに就く満月の夜だった。
 
 兎が一匹、兎が二匹、兎が三匹、兎が‥
 
 
 

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