人生という日常の合間に見つけた平凡な感動や、過ぎ去る時間のぼんやり思惑。 人生紀行

 
対の苺
No.55 4月は嘘つきのはじまり(3) 2005. 5.15

 4月1日が特別な日でなくなったのは、私がいつの間にか「嘘」が当たり前の大人になったから。
 
 卑しい気持ちで嘘をつき、他人と自らを欺いていないか今までの自分をじっくりと考えてみる。
 
 
 そう言えば‥好きな子に「好き」と伝えられなかったことがある。
何度もある。
 
 ずっと好きな子がいた。彼女は美人で、憧れからくる恋心が始まりだったと思う。好きな気持ちが先行していたから、近づいて話すだけでも緊張して彼女の前ではうまく自分が出せずにいた。そういう状態のまま時間が過ぎて一応友人関係という距離まで近づけたが、それは気に入られようとする嘘の自分だった。私は明らかな好意が伝わることで、彼女との友情関係が歪まないようにもしていたから、彼女にとっては「ややこやしい」話を持ち出さない、いわゆる“いい人”だった。彼女の前では本当に聞きたいことは聞けず、本当に伝えたいことは伝えれなかったのだ。
 ある日のこと、その日も普通に彼女に会い他愛もない会話をして楽しい時間をすごしていたが、突然彼女から最近できた彼氏の存在が打ち明けられる。そしてその彼と結婚をするかもしれないと言うのだ‥。内心は動揺する自分ではあるが、その心とは裏腹に平静を装ってしまう。
 『誰かが言う様な、ビビビと来る感じはないの。でも結婚ってこんなものかな‥って。』そう言う彼女の話しを友人として普通に聞き、その日を終えた。
 しかし帰宅しても心の動揺が収まらない。夜になって悲しさが溢れ出してくる。いままで沢山の彼女との時間がありながら、何もしてこなかった自分が情けなかった。このまま友人を貫き通せば、結婚してもその関係は続くだろう。しかし、彼女が結婚したら会う機会は殆どなくなるのは明らかだ。もし、一年後自分の命が亡くなるとしても、友人としての自分を選ぶだろうか?一年後彼女が結婚して会う事がなくなるとしても、今と変わらぬ友人を選ぶというのか?
 否。「いやだ、そんなのは嫌だ。」
 あらゆる勇気を総動員して彼女に電話をかけた。友達としての彼女が出る。少しばかり適当な話をすると、徐々に心臓が高鳴ってくることに気づく。
 今までつき通してきた嘘をとうとう止めて本心を打ち明けるときがきたのだ。
 「話してた結婚のことだけど‥、身勝手な意見なんだけどさ、‥結婚しないでほしい。」
 『えー?!何!?どーして?』
 「君の事が好きなんだ。」
 『‥。』それまで饒舌に喋っていた彼女が急に押し黙った。
 
4月は嘘つきのはじまり(4)へつづく 
 

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