人生という日常の合間に見つけた平凡な感動や、過ぎ去る時間のぼんやり思惑。 人生紀行

 
No.21 あたりまえの人として 2004. 1. 10

 友人から写真を見せられ、そこに写る人物に対して「かわいいでしょ〜?」という問いに「え〜そうか!?」と私は正直に答えてしまったことがあった。その直後、その場の空気に一寸の間があったと思っているのは自分だけかもしれないが、はっきりと覚えている。そこには忘れてはいけない教訓を含んでいた。
  無論、その発言は取り返すことができなかった。なんとか「笑い」でその場をしのいだつもりであったが、なにかバツの悪い感情がいつまでも残った。確認はしていないが、おそらくその友人の気持ちを傷つけたにちがいない。
  その友人は養護学校で現職の先生であり、見せてくれた写真は受け持つ学級の生徒であった。
 その「かわいいでしょ〜?」の問いかけには、親が自分の子供を世界で一番かわいいと思う感情と同じくらいの意味を含んでいる。
 私も短い間ではあるが同じ養護学校で代用教員として働いたことのある身で、勤務当時はその「かわいい」の意味を少なからず理解できていたと思う。
 それなのに私は「かわいいでしょ〜?」の問いかける意味を理解せずに、ただ写真を見ただけの感想で答えてしまった。その感想というものの実は「世間一般で商業的に使われる男好みの顔のカワイイ・カワイクナイ基準」だったといえる。
 そいう価値でしか見れなかった自分が情けなく、ひどい男に思えたのはそれから2日経った後だった。
 人が何かを大切にする気持ちを理解し続けることが、どれほど難しいか‥。そして共感し得た価値も、自分が気づかぬうちにいつの間にか移ろいでしまうということ‥。私がありきたりの人として学ばなければならないことは多い。
 その友人には年明けの便りで謝ったが、次に会うときにはこの話を詳しく伝えたいと思う。酒肴に、みんなと語り合えたらと思う。
 
 

旅人彩図 『人生紀行』 前へ 目次 次へ