T.旅支度

 
 
T−1 《君の目的は何か?》
 
事の発端には少々気力が必要であった。
 
 国内・外を問わず旅行があまり好きじゃなくて、異文化に触れたいという意欲や海外への関心という奴がどうも薄いこの私。「行ってみたい国はどこ?」なんて聞かれても
 
「別にない。強いて言えば南極で温泉入るか、オーロラを見るか、あと月面?」
「海外旅行?…別に行きたいとは思わない。」
 
 …という活力不足気味の男が旅をした。しかも海外一人旅。しかも飛行機使わずに船と列車でモンゴルへ。その始まりは旅立ちの3ヵ月前にさかのぼる。
 
 4月、モンゴルに住む友人に手紙を書いた。以前その友人から「暇があれば是非モンゴルに来てください。」と社交礼儀かもしれないけど手紙をもらっていた。
 こんな機会でもなければ旅行しようとも思わないない自分。友達を訪ねて行くというなら動機としては充分だ。軽い気持ちで「夏ごろ行こうと思うので、住所を詳しく教えてほしい。」と手紙を返す。
 すると、しばらくして彼女から返事が届く。(言い忘れたが、モンゴルに住む友人は私より2歳年下の女性である。彼女の名前は久美子。大学の大学祭実行委員会で共に活動した戦友の一人で当時から「まみぃ」というあだ名で皆呼んでいた。以後まみぃと呼ぶ。)返事の手紙から、どうやら本当に行ってもいいらしいことがわかった。
まみぃ
 
〔…。モ、モンゴルかぁ…。どーしよっかなぁ…。〕
 
 辿り着くべき目標地点は明確に設定された。が、しかし、なにせ海外旅行。金もかかれば、色々と面倒臭い。友達に会って、モンゴル観光するというだけじゃ、動機は充分でも海外も旅行も興味のない私にとっては、かなりのやる気不足。
 〔一応、この夏にモンゴルに行くことにして準備するか…。まみぃの任期もあと1年だし…。今しかないことだしな…。〕と気のない自分を気に乗せながら時は過ぎた。
 
 6月、色々と忙しくて旅の準備はまだ始めたばかり。ついこの間の6月1日にパスポート再取得申請をしただけ…。なんだか旅の支度って結構面倒臭いんだよな。まず面倒臭いのがスケジュールを組立てること。(計画なんて無くても旅はできるのだが、同じ金額を使用してモンゴルに行くのなら、たくさんの見所へ足を運びたいと私は思うのだ。)普段スケジュールなんて全然関係無い生活をしてるのもあるけど、旅のスケジュールを立てるには、まずどこが見所か調べて、そこへの交通手段を調べて、それからかかる時間を算出して、チケットを予約・購入して…と、とにかく面倒臭い。とにかく面倒臭いからついついパッケージツアーに便乗したくなる。パッケージは楽でいい。安心、かつ確実に見所へ連れていってくれるし、宿の手配からビザの取得や航空 券の予約のすべてをセットにして販売しているからうれしい限りである。
 だが、しかし「この旅の目的は何か?」と自分に問い掛けたとき、その答えは「まみぃに会うこと」それ一つだけなのである。この旅行の存在理由がそれによって支えられていると言えるのだ。まみぃがモンゴルに住んでいなければ、モンゴルに行こうとさえ思わなかったと断言できる。まみぃが月に住んでいたならば、今回は月面旅行になったはずなのだ。モンゴルに多大な興味があり、観光ついでにまみぃに会いに行くのではなくい。モンゴル観光は二の次で、まみぃを訪ねるための旅なのだ。
 …でもモンゴルに行き、まみぃに会うなんて目標は今の時代簡単に達成できてしまうのだ。飛行機で4時間、日本からモンゴル・ウランバートルへはこんなにも近い。…それって、そんなのって、全然面白くなーい!!はるばる離れたモンゴルへ大金はたいて行くっていうのに、目標達成の道のりが近すぎる!そんな旅なんて面白くない!やっぱり目標達成は少々困難な方がやる気が出て、達成時の感動も大きいというもの。
道のり  …と、そこで私の頭に浮んだのが飛行機は使わずにモンゴルを目指すという計画なのである。日本から船で中国に入り、国際列車でモンゴルへ。まぁなんてスリリングでステキな計画ざんしょ。これならばまみぃを訪ねて旅する甲斐があるというもの。
 そうなると、パッケージツアーなんていう安全・確実でスリルと困難からは程遠い旅行は、こっちから願い下げである。
  私の中でやる気がムクムクと沸き上がってきた。
 
〔行くぞー、モンゴルじゃー!!ちゅ、中国語とモンゴル語、勉強しようかな…〕
 
 とまぁ陸・海路で行くと決めたのはよいが、まだ『地球の歩き方』(ガイドブック)を購入しただけ。7月始めごろには出発したいのでそろそろチケット等の手配に走らねば…と思っていた6月の始めに日本の友達から連絡が入る。
 
「はっちさん(作者のこと)モンゴルへ行きますか?」
 
 その声は大学祭実行委員会で共に活動した家田氏であった。聞けば家田氏と山本氏のふたりもモンゴルのまみぃを訪ねてこの夏に旅行予定で準備中らしい。彼らの日程はモンゴル・ウランバートルへ飛行機の直航便で7月24日に到着し31日にモンゴルを発つというもの。彼ら曰く、「社会人として日々激務をこなす我々には丸々1週間の休暇を取れるだけでも奇跡に近い。君は単身船で行くらしいが、我々は研究生などという身分の君とは違い、暇は無いが金はある。よって高額でも飛行機でさっさとモンゴルへ行くつもりだ。どうする?我々と一緒に飛行機で行かないか?」ということらしい。私の答えは明解。
 
「7月24日、ウランバートルで逢いましょう!」
 
 よって24日〜31日の一週間、私とまみぃと家田氏と山本氏の4人でモンゴルで待ち合わせて一緒に観光をすることになった。私にとっては現地集合・現地解散である。
 
これで目指すべき地点と日にちが確定した。
 

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