人生という日常の合間に見つけた平凡な感動や、過ぎ去る時間のぼんやり思惑。 人生紀行

 
血抜かれた腕
No.106 Bloody birthday to me(3) 2007. 9.14

 ともかく、輸血という他人の命に関わる責任が、献血をする者にもある。どこか軽い気持ちでここ(献血ルーム)へやって来た自分が恥ずかしい。
 歳を重ねて多くの経験(海外渡航・病気・輸血を受ける事故など)を積むことで、献血ができない可能性を有する身体になるとすれば、献血ルームに掲げられたポスターの「二十歳の献血」というキャッチコピーが意味することは、とても大きいと思った。
 若く健康であるうち、まだ未知のウイルスの危険に晒されていないうちに、献血への協力を多く呼びかけているのだ。
 今日こうやって献血できる自分は健康であり、とてもとても幸運な事なのだと思い知る。まさしく「俺、誕生日おめでとう」じゃないか。
 問診と血液成分の検査をパスして、採血用のベッドへと案内された。採血機器とベッドが多数あるその部屋は、病院の大部屋とも歯医者とも言えない独特な感じだ。
 適当なDVD(全部を視聴する程の時間は無い)を個人視聴用の小型モニタへ再生し、ベッドへ横になる。テキパキと準備が行なわれて、看護士(採血士?)さんが、私の腕に張り出た静脈へかなり太目の針を突き刺すと、腕にズキッという痛みが走ると共に赤い血が半透明のシリコンチューブに滑るように流れた。
 成分献血は一度取り出した血液を、分離機にかけて必要成分を分離・抽出し、残った赤・白血球部分を体内に戻すというものだ。「出して、戻す」このサイクルを数回に分けて行いトータルで1200〜2000ml以上もの血液を処理して、そのうちの成分300〜600mlを採血する。そういうわけで成分献血は時間がかかるのだ。
 
 昨夜はあまり寝て無い、というか深夜未明から起きていたのが祟ったのか、私の血流量(血圧?)が少し弱かったようで、途中機械が警告音を何度か発していたが問題なく採血を終えることができた。
 成分採血装置で採血された私の血液成分(血漿+血小板)は半透明な黄色だ。肉ばっかり食ってて不摂生してる人は赤っぽい透明色だそうで、酷い時は輸血用には使えない場合もあると採血師の人から聞いた。私のものは「健常ですね」と言われて素直に嬉しい。
 血小板は採血後の有効期間が72時間。近日中に知らぬ誰かの為に使われることになるわけだ。‥とは言え、使われる状況は決して喜ぶべきことではないので、使ってもらってもただ素直に嬉しくは無いのであった。
 
 その後、献血ルームにて念願のコーラや他のジュースなんかを一通り飲んだり、おやつを食べたりして充分に休息。家に帰ると昼をとっくに過ぎていた。やや鈍い感じに痛む腕をかばいながら、献血後のだるい体をいたわり横になる。
 〔今日また一つ歳をとったのだな〕
 そう思いながらシミジミと周囲の人のことや疎遠になっている人のこと、それから今は生きてない人のことが頭に浮かんで、いつしか眠りにつく。特別なことは何もないけど、そんな今年の幸せな誕生日。
 
Bloody birthday to me おしまい 
 

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