人生という日常の合間に見つけた平凡な感動や、過ぎ去る時間のぼんやり思惑。 人生紀行

 
続くレール
No.64 期限付き青春旅行(2) 2005. 9.24

 9月10日早朝6時前、私は始発の普通電車に乗り込んだ。
 出発の朝は良いものだ。物事の始まりを凛と一人で感じ入る瞬間が好きだ。あまり乗り気ではない気持ちの旅ではあったが、未知の予感にワクワクとするような期待が動き出す。
 空席の多い土曜日の始発電車は、うす曇りの天気の中を富士方面へと走り出した。
 〔うす曇りかぁ‥、これでは富士山は見えないだろうな‥。〕
 窓から見る愛知県の天気は晴れとも曇りとも分別しがたい感じだ。富士山は高い山だけあって雲に覆われることが多い。9月とはいえまだ夏の空気同様に湿っているし、昨日(天気:晴れ→曇り)に確認したライブ映像でも富士山は終日ドン曇りであった。
 
 
【富士山はたくさんのサイトで画像をライブ配信している人気者なので、好きな人はインターネットで毎日確認してみると面白いです。特に「富士五湖テレビ」の三ツ峠のカメラは10分毎の更新ですが画像が綺麗。それから由比町のカメラは歌川広重が描いた有名な版画の現在をリアルタイム(2秒間隔更新)で見られます。カメラ操作などもできますがJava実行環境が必要です。】 ⇒富士山ライブカメラリンク※「富士彩景」
 
 海側に近づいて余計に雲が厚くなってきた。徐々に悪い兆しを景色に見ながら電車は豊橋、浜松と越えてゆく。旅立ちに際して感じた気持ちはどこへやら‥で、〔富士山が見えないことだけ確認したらサッサと帰えろうかな‥〕と思うほど一人でいると考えることもマイナスな事ばかり。
 
 実は、このしばらく私はなかなか制作に取り組むことができていなかった。
 上手く行ってない状況のときは、不安が増幅した自己否定感に襲われて手が止まってしまう。道連れのいない一人旅は、そんな不甲斐無い自分を責め立て続ける。散々(無意味のような)反省と後悔を繰り返しながら、いつの間にか混雑してきた車両を見渡す‥、色々な人がそれぞれの理由でこの車両に乗り合わせていた。駅に着くたび、降りる人がいて、乗り込んでくる人がいる。
 
 〔もし、あと一ヶ月で自分の命が尽きるとしたら、俺はその日までただ黙々と絵を描くだろうな‥。〕
 なぜだか、ふと死んでしまった友達の顔が浮かんで、明日を憂いて今をおろそかにしている自分に少しづつ気付く。今の一筆を絶って一枚の絵を描きあげることはできないのだ。
 〔私には責任がある。想いを伝えた人がいて、期待してくれる人がいる。今の自分と続く未来を信じてやるしかない‥。〕
 レールの上、堂々巡りの思考の中でそんなことを一人考えていた。
 
期限付き青春旅行(3)へつづく 
 

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