人生という日常の合間に見つけた平凡な感動や、過ぎ去る時間のぼんやり思惑。 人生紀行

 
No.5 海へ 2003. 8. 25

 友達夫婦の家に遊びに行った。その日集まったのは大学時代の同級生4人。みんな結婚して家を建てたり、出産したり‥。お茶とお菓子と会話を楽しんで、4時には解散となり、一人寄り道をする。
 
 ―――――  海へ。
 
 近くに海がない街で育ったせいか、本物の海を見ると訳もなくワクワクする。
 堤防に遮られた視界が、その障壁を登ったときにグワワワーっと一気に彼方へと開ける瞬間のときめき。
 自分の瞳孔が大きく開くのを感じて、反射的に潮風を胸いっぱいに吸い込む。ゆっくりと吐息が流れ出てた後の安堵と開放感。
 素足になって柔らかな砂の感触に遊びながら、持ってきたデジタルカメラで写真を撮る。
 何かに使うわけでもない、記念でもない、技術練習でもない、意味も意図もなくファインダーから見えたキラキラのこの世界をメモリーカードのシリコン石に電子のつぶてで刻みつけた。
 
 久しぶりの海だけどそこに居たのはわずか30分で海水にも触れずに帰ったが、それで充分。それ以上一人で海なんか眺めてると、潮の毒気で憂鬱になるから‥。
 
  カーステレオのボリュームを上げ、音楽に合わせて歌を口ずさみながら家路に着く夏の夕暮れでした。
 
 

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