人生という日常の合間に見つけた平凡な感動や、過ぎ去る時間のぼんやり思惑。 人生紀行

 
No.4 コーヒー:香しき ひとりの時間(4) 2003. 8. 25

 そんなことがあってから、店頭のコーヒーの種類を気にするようになり、挽いた豆から入れたコーヒーの美味しさもおぼえた。やがて数年が過ぎ、現在ではコーヒーミルで自ら挽いた豆でコーヒーを飲むようになったのだ。お店で豆を買うときはもちろん「豆のまま」。コーヒーを入れる直前に一人分だけ挽いて、挽きたての味と香りを楽しむのが最近の私の贅沢な時間だ。
 挽きたての豆から入れたコーヒーは本当に美味しくて、ミルクや砂糖は一切入れないブラックで飲む。この味を知ると、インスタントはもう飲めないし、安い喫茶店でコーヒーを飲む気がしなくなる程だ。
 もしもあのとき、ゼリー作りの失敗がなければコーヒーの奥深さとその味わいにまだ気づいてはいない人生を歩んでいただろう(バケツいっぱいのコーヒーゼリー作りを実際に行動に移そうとしたことも重要だが‥)。
 コーヒーの香りをかぐと時たま不意にコーヒーゼリーを作っていたあの頃の想い出がよみがえるときがある。タイ・バンコクでの勤務‥、コーヒー豆を挽いてもらったあのフジ・スーパー‥、ゼリーを夜中に一人で作ったこと‥、その想い出は香しいコーヒーセピアの色に染まりながら、ふうわりと浮かんでは消える。
 それから数年の時間が経ち、コーヒーにまつわる嫌な想い出もできてしまったが、コーヒーの深い味わいを口にするとそんな苦い想い出はどこかへ消えてしまうのだった。

 現在は作業の合間に一人でコーヒーを飲むことがほとんどだが、大自然の中で仲間や誰かと一緒にコーヒーを飲むなんてのもいい。もちろん挽きたてのブラックを、冷めるほどにゆっくりと時間や会話を楽しんで‥。
 
コーヒー  おしまい
(※ちなみにバケツコーヒーゼリーは未だ遂行せず。死ぬ前にはやっておきたい!)
 

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