人生という日常の合間に見つけた平凡な感動や、過ぎ去る時間のぼんやり思惑。 人生紀行

 
赤い実
No.122 誰がために実は染まる(3) 2008.11.24

 ある植物は種を丸く適度な重さに(進化)して高い幹から落とし、地上を転がしたり水に流す事で遠くに運ぼうとする。
 ある植物は種を小さく軽くして、時期がきたら勢いよく皮で種を弾く奴がいる。種に綿毛を纏わせたり、羽をつけて風に乗せようとする奴もいる。種を海水にも長く耐える仕様にして海に流した奴もいる。中には他の奴等の様に種を使うのではなく、近隣のみではあるが確実に根っこだけで子孫を残すことに努力してきた奴もいる。
 
 やがて、ある時期から植物たちは地球上に多くなってきた動物を巧く利用しようとした。
 地上を闊歩、あるいは空を飛翔する動物達に種を運んでもらえれば、遥か遠くに種をばら撒くことが可能だ。環境の変化で種族が根絶やしにならない為には、何としてでも今居る場所よりずっと遠方に種をばら撒いておきたいではないか(危機管理として)。
 動物の毛に種を貼り付ける奴もいたが、動物たちが自分たち(植物)を食べることに着目した奴が現れた。動物の胃腸内での消化に耐えるようにした種を食べやすい果肉で被せることで、積極的に果肉を種ごと食べてもらい、後ほど別の土地で種を排泄してもらうのだ。
 その路線で多くの植物たちは改良・改善を重ね続けた。
 〔どうしたら動物たちは種を食べてくれるのか?〕
 果肉をおいしくしないと駄目だ。それから匂いを付けられないか?栄養がある果肉にしたらどうだろう?良い匂いで、美味しくて栄養満点なら、色々な動物が好んで食べてくれるはずだ。
 〔競争相手(植物同士)が多い場所で自分の実を一番最初に食べてもらう方法は無いのか?〕
 動物達には目というものがあって世界を見渡せるらしいゾ。果実に目立つ色を付けたら動物の目に留まるんじゃないか?一体何色がいいんだ?とりあえず自分達の葉に囲まれた中でもよく目立つ色に果実の外皮を染めれば、発見されやすく食べてもらえそうだ。
 そうして植物たちは葉の緑色に対して「目立つ色=多くは赤や黄色など」に果実外皮を変化させて、「果肉が熟した=種の準備ができた」サインを動物に発するようになった‥と、考えられている。
 
 ちなみに植物の葉っぱが緑色であるわけは、地球に届く太陽の光と地上の二酸化炭素を光合成で利用するのに緑色が一番効率が良かったからだ。地球という環境では光合成を行う葉が緑になるのは必然であり、多くの植物の実が赤や黄色に染まるようになったのは当然の帰結かもしれない。いや、これらは過去〜現在の地球環境の成しえた偶然で、進化の一過程における断片と言うべきか。
 
誰がために実は染まる(4)へつづく 
 

旅人彩図 『人生紀行』 前へ 目次 次へ