人生という日常の合間に見つけた平凡な感動や、過ぎ去る時間のぼんやり思惑。 人生紀行

 
湧間
No.65 期限付き青春旅行(3) 2005.10. 5

 各駅停車の普通列車は富士山が見える富士川までやってきていた。
 富士川上流方向にあるはずの富士山は裾野から頂上まで厚い幕のような雲に遮られ形さえ全く見えない。
 車窓から見える景色のどの位置に山があって裾野がどう広がっているのかもはっきり知らないため、あるだろう方向を見据えながらもそちらに本当に富士山があることを信じ切れないような感じのまま電車は三島市に到着した‥。
 JR三島駅から清水町の柿田川へはここから約3km、バスも出ているがちょうど良さそうな距離なので歩くつもりで調べておいた地図を取り出して歩き出す。
 三島の町は新旧の民家が立ち並ぶ日本の一般的な町という感じだ。自分の暮らす町と違うと思ったのは富士山とその湧水に町の人達がとても愛情を持っていることだろう。湧水に触れて楽しめる場が市内に多く整備されていることや、「湧水祭り」のビラが町内に貼ってあることからもそれはよくわかる。三島市を含めた富士山周辺ではたくさんの場所で富士山からの地下水が湧出しており、地元の人達にとって富士は眺めるだけでなく古くから暮らしと密接な関係を保っている。
 

 
 清水町柿田川は富士山からの雨水や雪どけ水が地下水として湧き出す川。全長1.2kmで狩野川に注ぎ込む短い支流だが、清水町内国道1号線沿いから忽然と1日約100万m3(およそ25mプール2000杯分)もの水が湧き出しており、年間を通じて一定した水温(15℃前後)と水量で貴重な自然と生態系を保持している。その湧水地は公園として整備され、川底から湧き出す清水の様子や美しい緑と動植物を見て楽しむことができます。
 
 運動不足の身に3kmの道のりを意外と遠く感じながら歩いていると〔俺はどうしてこんな場所にいるのか?〕というような不安に似た気持ちが湧いてきた。
 観光地でもない初めての場所に佇んでいると、ワクワクするのと同時に旅情感を通り越した得体の知れない感情に襲われる。一人だからつまらないのか?最近何も上手くいってないからか?‥いや、この土地を私が愛していないからだろう。
 愛する土地や愛する人がいて帰ることができる場所というのは人の心にとって、とても大事なことだ。この町が私の帰れる場所なら、不安も今ここにいる疑問も無縁であるはず。初めての土地に愛情や愛着というほどの気持ちが存在しないがゆえに、旅情感を醸し出すのだろう。
 
 〔愛情とは積み重ねた記憶が、質的変化をおこした賜物なのだな。〕
 
 「愛について」考えを廻らしなりながらトボトボと歩き続ける。“青春”(18きっぷ)の旅だからテーマは壮大でも青臭くてもいいのです。
 
期限付き青春旅行(4)へつづく 
 

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