人生という日常の合間に見つけた平凡な感動や、過ぎ去る時間のぼんやり思惑。 人生紀行

 
紅梅の花
No.51 夢と現実の確定申告(1) 2005. 3. 4

 世間は春に向けて確実に動き出している。
 梅の花が咲いているのを見たり、日が長くなって暖かい日があったり、飛散する花粉に反応したり‥。身の回りの自然から春を実感するのは当然だけれど、自然の変化によるものではなく春の到来を感じさせるものがある。新たな門出の報告や、周囲の人の就職や異動に関する話題だ。
 私の新卒就職時期はずっと昔に過ぎてしまったし異動というものにも現時点では無縁だけど、友人や知り合いの異動についての噂が飛び込んでくるし、「あいつはこの春からどうなるのかな‥」と思いを巡らすこともこの季節は多い。
 周囲の新たな門出を勝手に想像して春の到来を徐々に感じ始めていたら、自分自身にも「新たな門出への情報」がやってきた。
 「北海道のある工芸美術館での職員募集」を大学時代の恩師から紹介されたのだ。
 結論から言えば丁重にお断りするのだけど、昨今のいまいちパッとしない自分の状況を打破するにはこの話は「渡りに船」とも言えるわけで、えーっと‥、わずかな間ですが素直に迷いました。
 〔受けるべきだったのかもしれないな‥〕と、話を辞退した後に思い悩むのは、私がより確実で平均的な額面の収入を得るべきで、自身得たいとも思っているからだ。
 
 一般的な生涯に手にするお金=収入はどれくらいの額か知っているだろうか?日本の平均では学校卒業後すぐに就職し定年まで勤務した正社員の場合、賃金+年金で2億5000万〜3億円以上になると言われている。もちろん大手企業に就職しそれなりに出世(成功)もすれば、生涯収入は4億円に迫る人も決して少なくはないだろう。
 では、アルバイトだけで過ごした場合はどうか?賃金+年金で1億円に満たない額というのが現実だ。正社員と比べて生涯の収入で普通に2億円近くの差ができることになる。
 このお金の数字は強い力をもっている。「やりたいこと」「就きたい仕事」がなくても、とにかく正社員でやりたい仕事はとりあえず就職した中で見出せばいい。卒業時に具体的に就きたい仕事がある人なんて「稀」なことだから「なんとなく就職」で大いに結構じゃないか!
 お金は大事だ。生命に関わる医療サービスを受けることも、人生における一般的な幸せ(健康・結婚・出産・育児・家・美味しい食事・年金)を得るにも、お金の影響はとても強い。約束された収入があることは、一般的な幸せを得るチャンスを多く与えてくれるということでもあるのだ。
 人生とお金について少し学べば、特別に強い夢や意志(あとは無謀な思い込み)がある場合を除いて正社員就職をまず選ぶべきだと思うのは模範的でまっとうな解答だろう。
 
夢と現実の確定申告(2)へつづく 
 

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