人生という日常の合間に見つけた平凡な感動や、過ぎ去る時間のぼんやり思惑。 人生紀行

 
No.19 冬の味わい 2003.12. 21

 今年は暖冬だと思っていたら、愛知県で12月20日に雪が降ってあたり一面が白くなったようだ。その日、目が覚めたのが昼近くだったので一面の白き世界は見れなかったが、日陰に残る雪は充分に積もった気配を残してくれていた。このあたりでは雪が積もることは年に数回なので、雪が降り出すと「積もらないかな〜(願望)」と家の中から外を見てワクワクすることは子供の頃から変わっていない。でも寒いのは嫌いだった。理由はあの肌をツンとさせる寒さと「しもやけ」で毎冬に痛い思いをしていたからだ。
 それが今では冬にはとても好意をもっている。そうなったのは「時とともに」とか「なんとなく大人になるにつれて」という曖昧な理由ではなく高校以来の友人”K”の影響だ。
 17歳の冬。Kと高校の帰り道で「どの季節が好きか?」という話題になった。よくある他愛もない会話だ。
 私は冬は嫌いだったし、その反動もあるのかその頃はとにかく夏が好きだった。周りの植物や動物(昆虫)などが生き生きとして、夏の遊びなどはたくさんあって、野宿しても凍死しなくて、しもやけもできなくて、活発に動けるから夏はいい。‥みたいなことを私はKに説いてみせた。
 するとKは、冬の遊びだってたくさんあるし、冬だって活発に動けるし、たしかに動植物はじっと耐えているが春に向けて力を蓄えているのだ、と反論をして「僕は、この凛として気持ちを引き締めてくれる寒さのある冬が好きなんだ。」と答えるのであった。
 反論されたことにも驚いたが、なにより冬が好きときっぱり答えたのに私は驚いた。
 自分の周りの人に好きな季節を挙げてもらえば、大体の人が春・秋、次いで夏、そこで終わりだ。好きな季節に冬を言い出す人はKが初めてだった。しかもKの冬が好きな訳には説得力を感じたし、それまで考えたことのないものの見方や価値観を私に提供してくれていたのだ。私がそれまで忌み嫌っていた寒さこそが、味わうべき冬の良さなのだと知ったのは正にその時からであった。
 頬を刺すような冷気、張り詰める空気に湧き上がる真っ白な吐息、凛と引き締まる身と心‥、冬が来るたび一度はKを思い出して冬の良さをまた改めて味わう。新しい価値に気づくとき、人はそれを好きになってしまうのでしょうね‥。  冬は好きですか?
 
 

旅人彩図 『人生紀行』 前へ 目次 次へ