人生という日常の合間に見つけた平凡な感動や、過ぎ去る時間のぼんやり思惑。 人生紀行

 
No.15 私をどぶろく祭りに連れてって(5) 2003.11. 20

 「こんばんわ」と闇の中から現れたのは今日の勤めを終えて駆けつけたという2名の40歳くらいの男性。会社から直接ここ蔵欠町へ来たようでまだ作業着のままだ。どぶろく祭りを毎年楽しみにしているという二人が言うには、これから「どぶろく祭り夜の部」が始まるということだ。
 そして、しばらくするとまた人が来た。こんどは60歳くらいの男性2名。手には包みを持っていて、小屋に上がると包みの中から鍋を取り出した。先に小屋に上がり込んでどぶろくを飲む見ず知らずの私たちにも「どうぞお食べなさい。」とすすめてくれたものは、このあたりで獲れたイノシシの肉を煮付けたものだ。一同は珍しい食べ物に驚きながらそのシシ肉を口にすると‥、これがおいしい!歯ごたえは強いが臭味はなく肉のうまみは十分。
 「これもちょっと食べてみなさい。」と続いて取り出されたものが、スズメバチのサナギを煮付けたものだ(相当に高価なものらしい)。
 白くハチの姿が残ったそれは、見てくれも味の方もそれ程いいわけではないが、とにかく滋養満点だそうで、強いので食べ過ぎに注意とのことだ。
 二匹ほど口に放り込んでみたが、うん‥そんなにうまい物じゃない。しかし、これもまた貴重な食べ物をいただくことができた。山の幸に舌鼓をうちながらどぶろくも進む。
 それからも人は徐々に増えて総勢10名ほどで小さな蔵小屋での酒盛りは続いた。お互い全然知らない仲であれ、今年のどぶろくの味や近隣の町村の様子、イノシシを捕獲して解体するまでの話などで盛り上がり、大変楽しく興味深い時間を過ごす。
 小屋の外は漆黒の闇夜。木陰の間から広がるわずかな空にはたくさんの星が輝いている。小屋の明かりがみんなを照らし賑やかな話し声があたりに響く。どぶろくと郷土料理はいよいよ美味しく、ほろ酔い気分で夜は深けてゆくのでした。
 夜の9時には今年のどぶろく祭りは御開きに。なんとも言えない、いい気分で〔どぶろく祭りに来てよかったなぁ。〕としみじみ思う。そして最後までいたみんなと別れ際に「また来年。」と声を掛け合い岡崎のどぶろく祭り一人旅は無事楽しく終了するのでした。
 
私をどぶろく祭りに連れてって(6)へつづく
 

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