V.モンゴル旅遊編

 
 
V−1 《ウランバートルの街》
 
 青い空に浮かぶ白い雲、そしてハーブの香る草原の中にビルや家々が立ち並んで見えてきた、モンゴル・ウランバートルの街だ。国の総人口234万人のうちウランバートルにはその約4分の1の62万人の人々が暮らすモンゴルの首都である。
ゆっくりと列車が停止した。ウランバートル駅に到着である。
 
 〔とうとうやってきましたモンゴルはウランバートルへ。さてさて、まずはまみぃに電話で連絡しなければ…、電話、電話…〕と電話を探す。
 駅ビル内を覗くと電話ボックスが2・3基見えたので中に入る。駅の待合室らしいその場所にはモンゴル人しかいないようだ。まずは観察だ。電話のかけ方が分からない。日本のそれは分かるがモンゴルのそれと同じかどうかは怪しいのでよく観察することにした。
 
 …。観察の結果、テレホンカードでしか電話はかけられなようだ。
ウランバートル駅にて
 〔テレホンカードか…。どうせ一回しか使わないのに、買わなくてはならないのか…〕 まわりを見渡すと売店がある。おそらくそこでカードは販売しているだろうが「テレホンカードをください。」とモンゴル語で伝える自信などあるわけがない。ここはモンゴルで、周りも皆モンゴル人だ。
 
〔…。作戦変更!!〕
 
 まずは市内のどこでもいいからホテルに入り、そこのフロントの電話でまみぃに連絡するという作戦である。ホテルならば多少の英語も通じるはずに違いないし、テレホンカードなんて買わなくても済む。…という予想のもとにとりあえず駅を出る。駅を出たところで、さっきまで列車のコンパートメントで同室だった人に出くわした。どうやら「イドレーゲストハウス」という安宿にそこのオーナーのイドレーさんと向かうところらしい。
 
〔ドンピシャ!〕
 
 彼と共にその安宿で今日は泊まることにする。1日あたり3USドル。これで今日の泊まる場所と、電話のできる環境を手に入れられることになった。
 宿に着きイドレーさんに電話をかけてもらう。…、…。イドレーさん曰く「その電話番号は現在使用されていない。」とのこと…。2度3度かけてみても同じ。
 
〔電話がだめなら、直接討って出るのみ!〕
 
 部屋に戻り、まみぃからの手紙を手にして街に出る。まみぃの家の住所は「ウランバートル スフバートル6地区 41アパート 43号室」ガイドブックの略地図で確認すると、このイドレーゲストハウスからかなり近く、歩いて数分あたりのようだ。
 
〔まみぃ〜!おまえは携帯電話もってるんじゃなかったのか?!どいうこと?〕
 
 そう思いながらも、心はウキウキである。初めて見るウランバートルの街、初めて見るモンゴルの人達、言葉すら通じない知らない土地を一人で冒険だ。まみぃには私から直接連絡をつけてはいないが、後から来る家田氏の方から大体の到着日が告げられている。まだ日本にいる家田氏に電話をして、まみぃにインターネットなどで連絡をとり、詳しく待ち合わせを設定してもらうこともできる。が、そんな回りくどくて面倒臭いことはやりたくないし、これぐらいの困難があったほうがとにかくおもしろい。
 
〔なんとしても、まみぃの住み家を探しだす!待ってろよ〜まみぃ。〕
てな感じで血沸き肉踊る大スペクタクルアドベンチャー(?)の始まりなのである。
 
 まず宿を出て都市の中央に位置するスフバートル広場方向を目指して歩きだす。宿のイドレーさんから教えてもらった「スフバートル6地区」あたりまで略地図を頼りに一人やってきた。
 ウランバートルの中心街はどこも似たような感じのロシア風の4階建てアパートがズラリと並んでいて、そこそこ整っている。アパートには一つ一つに番号が記入され、それがどうやらアパートの番号のようだ。建物に記された41の番号を探しながら歩く。
 
「…!あった。」
 
ウランバートルの街  41の数字が赤いペンキのゴシック体で記された「41アパート」に辿り着いた。
 
 残るは「43号室」をここから探すのみ。このアパートには入り口が4つある。適当に入り込んで、扉の数字や表札をチェックしてゆけばいつかは見つかるだろうが、一応「スフバートル6地区 41アパート」までを確認する意味でも人に尋ねてみようと思った。
 近くにいる人を捜す。なるべくこのアパートの住人らしい人で、信用のおける風貌で、子供すぎず、歳寄りすぎず、忙しい感じでなく、やさしい人相の持ち主で、強いて言うなら気の良さそうなおばちゃんとか、できればかわいい系のお姉さんとか…とバカなことを考える間もなくうってつけの人物を発見した。どうやらこのアパートの警備員のようだ。
 
 顔は少々恐い感じもするが、憎めない愛嬌も含んでいる小太りなおじさんである。そのおじさんに近付き「サインバイノー(こんにちは)」と声をかけた。まみぃが手紙に記してくれたモンゴル語の住所を見せて尋ねる。
 
「ハーンウェ?(どこですか?)」
 
 おじさんはとりあえず私が外国人と判ったようすで、無言のまま手紙の住所を難しそうに見る。そこでまみぃの名前を言ってみた。「クミコ。…ヤポーン。(くみこ。…日本人。)」そして「マイフレンズ(私の友達です)」と英語で付け加えてみると、そのおじさん分かったらしく、まず41アパートに指を差す。次にそのアパートの輪郭を両手でなぞるように四角を宙に描き、続いて1・2・3・4とアパートの入り口を順に指差して、その4番目のところで手のひらで層を作り3層目のところに指で丸を描くのであった。つまり…そういうことだ。
 「バイラルラー(ありがとう)」とおじさんにお礼を言って、4番目の入り口からアパートに進入。階段を上り3階までやってきた。3階にはドアが3つ。見たところ、表札はどれにもない。…よく観察すると一つのドアに赤と青と白でデザインされたシールが貼りつけてあり、そのシールに落書なのか「こんにちは」「ありがとう」と幼稚な平仮名文字が書いてある。中からかすかに人の話すような音も聞こえた。
 
〔…この扉が一番あやしい。たとえ違っていても、何かしら日本人に関係ある人物のはずだ。まみぃのことを聞けば残りの2つのドアのどちらが正解か聞けるハズ。…よし!〕「ごめんくださーい。来々軒ですー。ご注文のネギチャーシュウをお持ちしましたー。」
 
…と、ひとり心の奥底で叫んで、ドアをノックする。コン、コン。
 

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