人生という日常の合間に見つけた平凡な感動や、過ぎ去る時間のぼんやり思惑。 人生紀行

 
魔女の宅急便の場面
No.143 わかり始めたコード(3) 2013. 5. 8

 ルパンがそんな特殊な樹脂をもっていたのか?という疑問はあるが、いやそこは、さすがルパン三世!顔に被る変装のマスクも特殊な樹脂で、たぶん結構な値段がするハズなのに惜しまず使い捨てるし、ほんと、彼は樹脂のプロフェッショナルなわけですから、そういう鋳造用の高耐熱樹脂を持っていても不思議はない。
 結局、ファンの推理なので、このニセ指輪作りで加熱している物については、描かれた場面だけでの特定は難しいってことになるんだが、監督(宮崎駿氏)が鋳造についての造詣(ぞうけい)が深いことが伺い知れる描写なのである。
 同監督が後に作った「もののけ姫」は鉄の精錬場である“たたら場”を舞台としたし、
それは金属加工(鋳造)に深く関連する施設でもあることから、鋳造に関連する興味・知識を強く持っている人なのだろうと推測する。(きっと「鉄」を好きなんだと思う)
 
 そういえば、同監督作の「風の谷のナウシカ(1984)」のアニメにおいて、物語の出だしで「王蟲の抜け殻から眼の部位を取り外す」シーンがある。そこでは主人公ナウシカがライフル銃の弾丸(薬きょう)から火薬を取り出して流用する場面があり、前述したこのカリオストロの城で、ルパンが行う弾丸からの火薬流用と似た描写だったりして〔そりゃあ、同じ人が演出しているんだもんな‥。〕と思えて、ニヤリとさせられる。(きっと「銃弾」が好きなんだと思う)
 こういう行動や道具等の扱いに関するカット・シーンが、宮崎駿氏の手がける作品では丁寧に描かれることが多く、それがスタジオジブリ作品の魅力の一つでもある。
 「借りぐらしのアリエッティ(2010」)で、お父さんがハンダ付けして道具を補修するシーン。「魔女の宅急便(1989)」でキキがニシンパイを焼くために薪オーブンを使う一連手順のシーン。などなど、ストーリー上重要ではない、マニアックな行動描写が、描かれる物語世界全体を引き立てているのだけど‥、これ、知らない人にとっては記憶に残らない場面になってることだろう。現に私の友人は、魔女の宅急便のキキで薪オーブンの利用については全く印象に残って無いとのことだった。
 では、その逆に「知っている人が見たら」‥それは興奮ものだ。ニンマリと一人ほくそ笑んでしまうような印象深い描写なわけで、物語の中で楽しめる箇所も違ってくる。
 前述のルパン:カリオストロの城であれば、例のニセ指輪作りを数秒カットの間に理解ができていると、後のストーリー進行でニセ指輪が登場したときに
 「あー!あのときルパンが型取りしてた、あれか!泥棒さんの芸が細かいこともさることながら、合間の時間を縫って下準備を地味にこなした結果の産物なんだなぁ‥」
 と、物語の伏線の回収をしつつ、ルパンの職人的側面を読み取りつつ、さらに、泥棒準備に地味な制作時間を日々送っているルパンの暮らしを読み取ったりして、すこぶる楽しいわけ。
 魔女の宅急便のキキがニシンパイを焼くシーンであれば、ここを良く見ていれば薪オーブンは使ったことなくとも、着火時の薪の組み方から“おきび”の使い方、オーブンの原理までがなんとなく理解できる程にとても丁寧に描かれていて、勉強になるし、いつか自分も石釜の薪オーブンで何か料理したいという気分が沸き上がったりするわけよ。
 
わかり始めたコード(4)へつづく 
 

旅人彩図 『人生紀行』 前へ 目次 次へ