人生という日常の合間に見つけた平凡な感動や、過ぎ去る時間のぼんやり思惑。 人生紀行

 
桜
No.116 春の便り(4) 2008. 5. 2

 当時の私もいわゆる「脈アリ」に想いを巡らせてドキドキしてみたが、彼女(Y)は誰彼の区別無く周りの人に優しい女性で、“クラスメートの冴えない男子の一人”という自分を考えれば、それは都合のいい妄想なのはすぐ分かった。
 でもだ、手紙もらえて、普段でも話ができるのだから、良好な関係があることは確かなので「脈アリ」とまでは思わなくとも、新学期にはより親しくなれる予感を抱いたという感じだろうか。私にとっては嬉しい手紙だった。
 
 その手紙を機にYとは他愛無い話や、授業や課題のことなどを気軽に話すようになる。
 学校で出されたグループでの課題では一緒の班になり、自由席の授業などでは彼女の近い位置に居ることも増えた。Yは聡明で優しく、話すのが楽しかった。それから白く綺麗な肌と整った顔立ちに、私は見とれもしていた。普段から何かとYと接点を持つ様に心がけるようになり、自然なことだが、次第に私は彼女とより近い関係になれることを密かに望むようになる。
 そうやってYと色々親しい話しができるようになると、彼女の口から付き合っている彼氏がいることが判明する。
 
 ま、「よくある単純な展開」だ。
 話しの流れでYは単に事実を述べたのかもしれないが、私には衝撃(インパクト)が大きかった。Yは私の気持ちの在り様を察して早期に「恋人が居る」という防御壁(ファイヤーウォール)を私に向けて示した‥とも考えた。とにかく、その現実の展開に私はすっかり落ち込んでしまう。
 
 しかし自分の気持ちはまだ誰にも言ってなかったのは幸いだった。今も、これからも、Yとは同級生で友達なのだ。自分が人知れず彼女への気持ちを鎮めれば何事も無く収まる。Yにしてみれば、いい友達(俺)と彼氏に恵まれて幸せな学園生活(残り一年)になるだろうから、私がおかしな態度を取らない様にしないと‥と思う。
 〔これ以上近づこうとしてYに迷惑にならない様に、かといって離れすぎて友達関係を破綻させてしまわない様に。微妙なバランスでこのままを維持するか、もしくは徐々にフェードアウト(関係疎遠)してもいいだろう‥。今はこれまで通りに仲のいい同級生で‥〕と、自分の心に言い聞かせ、次の日もいつもの様に学校で顔を合わせる。
 
春の便り(5)へつづく 
 

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