人生という日常の合間に見つけた平凡な感動や、過ぎ去る時間のぼんやり思惑。 人生紀行

 
民営化記念切手
No.114 春の便り(2) 2008. 3.13

 でも、手紙は良い物だ。
 「良い物」であるからこそ、それが持つ力、プラス面とマイナス面については理解しておきたいと常々思う。どんな物でもね。
 
 〔いわゆる“空気を読む”ことで手紙は出しにくくなったのか?‥いやいや、単なる引っ込み思案な性格のせいと、人間関係に臆病になっているせいだ。〕
 そうやってグルグルと一人勝手にアンハッピーな考えに囚われ、便箋と下書き用紙を前にしたまま一向に筆を取る気が沸き起こらないで居ると、ふと買ってあった切手に目が付いた。(完全によそ見&逃避)
 その切手は日本郵政公社が民営化した記念に発行されたものだ。金色の下地に日本画をデザインしてあって、豪華絢爛で一目瞭然にかっこいい。印刷してある日本画は江戸時代に活躍し現代でも人気の高い琳派の作品なのだが、詳しく見ると絵柄よりもその印刷方法に趣向を凝らした一枚の切手になっている。
 さすが日本郵政の歴史に残る「民営会社発足記念」だけあって力の入れ方が違う。切手にはメタリックマルチイメージ(金属多重模様)と言われる「見る方向によって模様が変わる金字の特殊印刷」が施してあり、8色の特色インクを使った印刷方法が採用されている。
 メタリックマルチイメージは“民営化記念”という新たな門出にふさわしい豪華さをこの切手に添えているといえる。‥が、実は以前から何度か日本の切手で使われてきたので切手を買うことがしばしばある人ならやや見慣れた感がある。私が今回の切手で注目するのは、後者の特徴の8色の特色インク。これこそ、この切手の大きな“こだわり”だと思うのだ。
 切手シートの周囲部分、下の方に並ぶカラーマークと呼ばれる色丸で、印刷に使用されたインクの原色数がわかるが、8つの色はイエロー・マゼンダ・グリーン・ブルー・ゴールド・オレンジ・ブラック・ホワイト。特筆すべきはホワイト=白だ。通常の切手では記念切手の類も含めて大体5・6色のインクで、紙の白を利用して絵の白色部分を表現するので“白インク”を使うことは珍しい。
 メタリックマルチイメージ、使用インク数8色‥、今までの記念切手よりも多くのコスト(費用)が注がれているはずだろう。琳派の日本画も美しいデザインだし、これで通常切手と同じ一枚80円なのだから、とてもお買い得な切手だった。

 
 
【切手の印刷について】
 切手の印刷は、技術名称としてはオフセット印刷・グラビア印刷・凹版・凸版などが挙げられているが、現代の切手の詳細や分類はかなり複雑だ。
 上記をハイブリッド(混合)した方法や発展させた技術が次々と採られていて、簡単には説明しきれない。ハッキリと言えることは、通常の書籍・雑誌などのカラー印刷よりもずっと細かくてシャープな印刷がなされることである。この精細な印刷技術が切手の偽造防止に一翼を担い、更に特殊なインクと特殊な紙が使用されている切手は、お札(紙幣)に並び“現代の印刷技術の高み”を見られる身近なものの一つといえるだろう。
 ちなみに、日本全国に毎年相当数・相当種類出回る切手であるが、以前の郵政公社ではその企画・マーケティング・デザイン(過去発行切手との照合を含む)・版下制作までを僅か数名の社員(切手デザイングループ)でずっと担っていたらしいから驚きだ。
 
春の便り(3)へつづく 
 

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