人生という日常の合間に見つけた平凡な感動や、過ぎ去る時間のぼんやり思惑。 人生紀行

 
荒彫り
No.100 バードカービングに恋して(4) 2007. 4.26

 カービングの主要な道具である“刃物類”は、ビットと言われる先端数ミリほどの交換式刃物・ヤスリを入れたケースがあるぐらいで、いわゆる彫刻刀や小刀なんかは見当たらない。
 生徒さんの一人に尋ねてみると、「一応カバンの中には彫刻刀などを持参しているが、荒取りした木からグラインダーでほとんど削り出して作ってしまうから、あまり使わない」そうだ。
 機械についても少し尋ねてみるが、今回開催する講座には予算・対象児童などでまるで適さない内容に愕然とする。なんせパワフルに長時間木を削れるような高性能ハンドグラインダーだけでも一つ数万円もするのだ。
 〔自分用に1セットだって揃えて買うこともできない‥。〕
 
 しかし、考えてみればこの教室のようにグラインダーで全てを作り上げるのは理にかなう制作方法だ。回転ヤスリは彫刻刀や小刀などと違って、木目に逆らって彫っても大きく木を裂き割らないで済むし、指先の力もあまり必要とならない。また、刃物より危険性も少なそうだし、細部の彫り込みも容易であるから、子どもにも大人にも作りやすい工程になるだろう。
 
 〔グラインダーは優れた道具だが、値段が高いんだよなぁ‥。〕
 そんなわけで遠路はるばる(ノウハウ盗みに)見学へ来たが、バードカービング分野の先端技法を参考程度に垣間見ただけとなった。(とても後学になりましたよ)
 そのときの教室で講師をされていたのが今期NHK教育テレビで講師をされている冨田嘉宏さん本人だった。講座中の短時間で大した会話もしてないからしっかりと覚えてはいなかったが、凄い人らしい。
 
 教室見学を終え、制作の様子を振り返っていると〔そういえば、そもそも形を作り上げるのに、なぜ全て粘土で作らないのか?〕と疑問に思った。
 樹脂やパテ、ガラスの義眼や金属の爪などを駆使し、最終的にアクリル絵の具で色を塗れば、木の質感は全て覆い隠されているわけで‥バードカービングの出来上がった姿だけを見れば、本体が木である必要も、塊から彫り出す必要も無いんじゃないか?粘土で大まかに作ってから、細部を彫刻すれば制作はよりスピーディで簡単になるはずだ。
 
バードカービングに恋して(5)へつづく 
 

旅人彩図 『人生紀行』 前へ 目次 次へ