人生という日常の合間に見つけた平凡な感動や、過ぎ去る時間のぼんやり思惑。 人生紀行

 
ジェルトン材
No.99 バードカービングに恋して(3) 2007. 4. 7

 さて、バードカービングに話を戻そう。
 バードカービングとは簡単に言えば鳥の彫刻で、特にアメリカで人気があるポピュラーなクラフトだ。アメリカではバードカービングコンテスト世界大会などの大きな大会(コンペ)も幾つか開催され、プロ作家といえる人や、作品集・技法書なども数多い。
 日本的な人気彫刻に置き換えると仏像彫刻=ブッダカービング。(分野としてはマイナーながらも案外裾野は広く、プロのトップアーティスト=“仏師”という存在も日本では1000年前から確立していたわけだから、バードカービングよりも格段に長い歴史を持つ日本の誇り高きクラフト分野だと思います。)
 アメリカでは「狩」も人気のある娯楽スポーツだが、その狩の囮(おとり)用途に木で鳥型を彫ることを主としてきたクラフト分野が、近年になって小型機械を使うなど、より精巧に作る為の細部の加工法が確立し、リアルで躍動感ある鳥を作り出すことを主眼にした「バードカービング」として発展してきたもののようだ。
 加工性や重量性からバードカービングでは主に木を使うが、リアルさを追求するために、ガラス(義眼)や樹脂、針金などを細部に使いながら、ルーター・グラインダーといわれる機械式回転ヤスリ(歯医者さんが使う歯を削るような機械)で木を削り、羽の細かい様子を焼きゴテで入れ、アクリル絵の具で全体着色する‥、「小刀や彫刻刀で木から鳥型を彫る」という“伝統的木彫”のイメージからはおよそ想像がつかない制作行程になっている。
 
 私がバードカービング講師の助手をするにあたって、専門的にやっている人の様子を見に行ったことがあった。ある文化センターで開催されているカルチャー教室の見学である。
 受付に行き「ノウハウを盗みたいので見せて下さい。」‥とは言わずに、事情は伏せて「教室見学したいんですけど。(ニッコリ)」と、その教室に正々(?)堂々と潜入した。
 教室では木を小刀等でコリコリと彫っているのを想像していただけに入室して面食らった。低く唸るモーターと甲高い削り音が室内に響き、保護用ゴーグルを着けた中年の男女が十数名ほど小型機械道具を手に作業している。机には一人一つづつグラインダー機械と小型集塵装置のボックスが置かれ、窓の向こうは都会のビル群‥(開催場所がそうなので仕方ないが)。
 バードカービングというものから連想した“どこかネイチャー”な片鱗も無く、まるで何かのハイテク集団(中年)のような、その現代的な設備と道具には驚いた。
 
バードカービングに恋して(4)へつづく 
 

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