人生という日常の合間に見つけた平凡な感動や、過ぎ去る時間のぼんやり思惑。 人生紀行

 
名古屋の旨いラーメン
No.87 涙のライブコンサート(4) 2006. 7.24

 やがてホールの照明がぐっと控えめになると、みんなの意識が舞台に集中した。‥そして次の瞬間、前に吊るされた緞帳が一気に下へ落とされると大音響と照明の中にパフィーの二人の歌声が響き渡った。
 〔キターーー!!パフィーだ〜!!うわーー!!〕
 周りのみんなはワーーーっと声を上げて飛び跳ねるように腕を上げた。私は初めての体験に興味と驚きに包まれて、舞台の様子を直立不動で目に焼き付ける。
 ブラウン管に映る姿しか見たことない有名人を間近に見る感覚というのは不思議なものだ。彼女らもちゃんとこの世に存在して、自分と同じような生身の人間らしいことがこの客席からうかがえる。
 〔あぁ、彼女達はあんなに生き生きと動いて、本当に声を出して歌ってるんだなぁ‥。凄いな〜、これがコンサートって奴なのかぁ‥。〕
 パフィーの二人以外演奏者の様子、照明や音響機材、ドラムやギターの楽器、他の舞台セット‥、テレビなどではあまり映されない部分にも目は奪われる。
 〔あぁ、ミュージシャンという人たちはこんな風に全国を回りながら収入の一端としてるわけかぁ‥。この会場の賃貸料金ってかなりするんだろうなぁ‥。〕
 近頃の自分の現実課題と重ねて、パフィー一行の興行収入と支出について思いを巡らしてみる。このライブメンバーの金銭的苦労などを全くあてずっぽうに想像して勝手に自分の励みにしながら、会場の音響と喧騒に埋もれて、ただ呆然とパフィーを見つめた。
 すぐに2曲目へと突入、耳についた覚えのあるそれはとてもよく知っている有名な曲だった。
 
 そう‥、借りたCDからカセットテープにダビングして幾度となく、それこそテープが摺り切れるほどに繰り返して聞いてた曲‥。10年前‥、バンコクでの日々‥、仕事‥、図工室‥、好きな人‥、仲間‥、たくさんの失敗‥、楽しかったこと‥、目にした景色‥。その音楽と共に染み付いた記憶が、断片的ながらも活き活きと甦る瞬間。止まってる白黒の静止画像に、徐々に色が付き、音が鳴り始めて、部分的だった画像が大きく周囲に拡がって、場面が動き出す。
 
 そして‥突然の涙。
 
 頬を流れる熱いものに、泣いている自分に気付く。嬉しさでも悲しさでもない、押し寄せるような感情の流れに押されてポロポロと涙がこぼれていた。
 〔ふぇ‥なんで泣いてんだ?!〕
 泣いている事に自分でも驚いて、今の気持ちを理解しようと思ってもよくわからない。だって今パフィーが歌ってるのは『渚にまつわるエトセトラ』だ。この曲で涙を流してる観客は一人もいないし、そもそもパフィーの歌に涙を誘うような曲は‥ほとんど無い。
 パフィーのコンサートで泣いてる30過ぎのオッサンが一人‥。
 やがてわずかな短い時間で涙の流れは一段落し、私は周囲の人や斜め後ろにいるI氏に悟られないよう、そっと上着の袖で頬を拭った。リズムに合わせて私も腕を振ってみる。大きくてクリアな音に痺れるような感覚、楽しげに歌う舞台のパフィーの2人はとても輝いて見えた。
 それから私も会場の勢いに合わせながら、知ってる有名な歌を一緒に歌い、身体を揺すって、楽しい初めてのライブコンサートの2時間はあっという間に過ぎたのだった。
 
 コンサートの帰り、I氏のおごりでラーメンを頂いて今日の余韻を語り合う。
 「いや〜、今日やっと亜美と由美が区別できるようになったよ。」と私。
 『え‥!?』(I氏) ‥だってあのパフィーの2人(亜美と由美)はなんだかよく似てませんか?パフィーの歌は好きで良く聴いてきたけど、2人を判別できないまま(しないまま)に過ぎてきてたんですよね。それなのに多くのファンに混じってコンサート会場に紛れ込んでいたという背徳感‥。ハハハ‥。
 ついでに財布にも充分な背徳感はあったけど、初のコンサートに充分満足して眠りにつく夜でした。(今夜だけは出金大サービスって事で‥明日は明日の風が吹く)
 
涙のライブコンサート おしまい 
 

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