人生という日常の合間に見つけた平凡な感動や、過ぎ去る時間のぼんやり思惑。 人生紀行

 
電柱
No.72 年の始めに願うこと(2) 2006. 1.24

 うーん‥どうやら原因は自分自身にありそうだ。
 その原因について一人で悶々と考え込んでいたら、いつしか自分を追い詰めてしまった。
 外気に触れて気分転換しようと玄関を開けて外を見ると、隣の家の車庫越しに夕暮れの光が当たる電柱が見える。ただの電柱。もう何十年と大して変わりばえもなくそこにあって、今まで気にも留めたこともなければ“美しさ”なんて感じたこともない、電線を張るコンクリート製の普通の電柱だった。
 
 〔きれいだな‥。〕
 薄く今にも消えそうな夕日が射した電柱に自然とそう思い、急いで引き返してカメラを持ってくると、夢中になってファインダーの構図を決めて数枚の写真を収める。その間わずか数分。写真を撮り終えると何かとても晴れやかな気分になっている自分がいた。
 
 美しいと感じるものも、楽しいと思えることも、次々と変化してゆきます。
 この電柱も明日になれば、撮るに足らない只の電柱にしか見えないかもしれない。
 前の一年、ささやかな気付きも大きな発見もあった。立ち止まり引き返さなければ、見つけられない大切なものもある。ポケットに入れた輝いていた塊が、ただの紙くずに変わっていたようなものもある。石ころを金塊に変えることはできないが、己が感じる価値は変えることができる。いや‥、それは自然と変わってしまうものかもしれない。
 
 「生きていることは変わること」
 この一年、これまで気付かなかった“美しさ”をどれだけ発見できるのか?それを楽しみにしていたい。そして一度感じた美しさをいつまでも忘れずに心に刻み留めたいと願うのでした。
 
年の始めに願うこと おしまい 
 

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