人生という日常の合間に見つけた平凡な感動や、過ぎ去る時間のぼんやり思惑。 人生紀行

 
失敗品
No.70 人知れぬ努力の対価に(2) 2005.12.25

 当日鋳込みながら商品生産する予定だったために、メダルを売ることも、販促ポップが店頭に掲げられることも、何より一番の目的である子ども達の鋳造作品を展示することもできず、私の店は"準備中”のままクラフト市終了と共に閉店したのだった。(開店せずに閉店というのもおかしいが‥)
 帰りの車中で仮眠をとりながら夜遅くに帰宅して、カッターやハサミ、粘土や石膏など材料や道具の散らかった部屋の様子に一層と疲れが増す。
 
 〔七日間に注ぎ込んだ時間と労力とお金(必要経費)は無駄になったナァ‥〕とフト思う。
 作家であろうと会社員であろうと、孤独な努力と奮闘は人知れずに誰もがしている。その人知れぬ努力が出来上がった作品(成果)として他人の目に触れたり、売り上げ(給料)として収入に繋がったりすることが、注いだ時間と労力と経費の対価・報酬になるのは、今日のクラフト市で見た他の作家さんも同じだろう。
 しかし、私は展示もできず売り上げもなかった。‥だ・か・ら、一円にもならず誰にも披露できずに終わった七日間ごときの奮闘で、ガタガタぬかしているわけだ。
 ええ、もちろんいい経験でしたとも。心底“無駄だった”なんて思っていません。考えて挑戦し失敗した‥今回の経験で得た技術・知識など学んだことは沢山あります。そういう意味で得をしたのはこの自分だとも思います。それに、オリンピック目指して4年間血のにじむような練習の末に大会直前で故障・棄権するよりも、七日間で済んだわけですからそれと比べたら痛みなんて無いも同然です。
 ‥でもさぁ、結果があれじゃあとにかく悔しいじゃないか!この間、絵も棚の上に揚げて全然描いてない!!誰かに愚痴を「わーーー」っとぶちまけたくなる気持ちを疲れと虚しさと眠気で抑え付けて、ふて寝する。
 
 一日グッスリとよく寝て、次の日散らかった部屋をサッパリと掃除したら、気持ちがスッキリと整理できたようです。
 そして、使われなかった(綺麗に作ってある販促ポップ等の貼り付いた)コルクボードを部屋の隅に見て、一人で「チッ」と舌打ちしてから自分の制作を始めるのでした。
 〔次は失敗しないから待ってろよ、販促ポップめ!〕
 
 また人知れず失敗は訪れるでしょうが、「生と死」の間にある不可逆的な断絶に比べたら「成功と失敗」なんて緩やかな起伏の先に必ず繋がっているようなものですから心配ありません。(強がり?)
 
人知れぬ努力の対価に おしまい 
 

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