人生という日常の合間に見つけた平凡な感動や、過ぎ去る時間のぼんやり思惑。 人生紀行

 
湧間2
No.66 期限付き青春旅行(4) 2005.10.17

 柿田川公園までやって来た。
 園内の木陰を潜り抜けて、幾つかある湧水地点へと向かう。
 
 柿田川の湧水は‥「川底から水が湧いている様子が見れるだけで、なんてことはない。」‥というのが一見した正直な感想だった。
 珍しいものではあるかもしれないが博物館に行っても退屈してしまう自分としては「へぇ‥綺麗な湧き水だな」としか言い様がなかった。ダイナミックといえる程の景色でもないし、湧間(わきま:水が湧き出ている穴)と観察できる場所に距離があるのもつまらない。湧間の見せ方、遊歩道の距離、水に触れられる場所、期待を持っていただけにどれもが少し中途半端に思えてしまった。
 
 〔川と緑を眺めてくつろげるオープンカフェでもあればなぁ‥〕
 ‥と、ここまで駄目出しをしておきながらも、何か心に残るものがある。いや、残るというより残らないというか‥、モヤモヤの気持ちをスッキリと洗い流してくれるような気がする。それは綺麗で豊富な水と水中に揺らぐ水草(ミシマバイカモ)などの緑に影響されたものでもあり、湧き出て止まぬ清水の様子にとにかく気持ちが安らぐのだろう。
 川底の砂が湧き出る水に舞い上げられる様子をジッと目をこらしていると、音が聞こえてくるようでもある。涼しさや清らかさを連想させる音、心を落ち着かせる音、軽やかに囁く静かで優しい音、そういう音が頭に響くようで気持ちがスッキリしてくる。
 注ぐ陽の光が青色を放つ湧間や、水中に自生する透き通るような緑色の水草は神秘的で、この湧水を愛して止まぬ人々の気持ちに大いに納得できる。カゲロウは草陰に舞い、川辺には遊ぶ水鳥たち‥、たくさんの生き物もここを愛し、互いに依存し合っている。
 
 ダイナミックでも世界遺産でもないが、このささやかで静かな水の流れは美しく心を和ませてくれる。人知れず野に花を咲かせる草のように、染み入る温かみがある。大切にしたい輝きがある。
 
期限付き青春旅行(5)へつづく 
 

旅人彩図 『人生紀行』 前へ 目次 次へ