人生という日常の合間に見つけた平凡な感動や、過ぎ去る時間のぼんやり思惑。 人生紀行

 
晴れた日
No.50 忍び寄る分身の影 2005. 2.12

 用事があって名古屋の繁華街を急ぎ足に歩いていたら、すれ違いざまに「あれ?!」っと私に声をかける男性がいた。こちらもよく解からず立ち止まると、その男性(30歳くらい)は私のことを知っているようで「久しぶりです。」みたいなことを言う。
 〔昔の同級生だったかな?〕と思ってその顔を思い出そうと試みるが、自分の記憶力が低下したのか、過去のその人が変貌しすぎてしまったのか、「タナカと名乗るその男」に該当する人物が思い浮かばない。
 「えーと、いつ会った、どなたでした?」と男性に聞くと、そのタナカさんは二年ぐらい前の春に私を含めた数人で酒を飲んだというのだ。
 場所は名古屋の焼き鳥屋で、ナベさんという共通の友人を介した飲み会だったそうだ。そこにタナカさんも同席しており、いい調子で酒を飲む私と「北海道の牛乳などの話をした」というのだ。
 とにかく向こうの記憶ははっきりしているので私の方が思い出せない内容だと思ってしばらく考えてみるが、名古屋でお酒を飲んだ記憶は数あれど「ナベさん」やこの「タナカさん」といった人物と一緒に飲んだ記憶はない。私にも以前の仲間で「ナベさん」と呼ぶ友人がいるが、タナカさんの言うナベさんとは違っているようだ。私が忘れた記憶なのかもしれないと内心落ち着かなかったが、立ち話で記憶のすり合わせをしているうちに「タナカさんの人違い」という結論に至って、私もホッとした。
 「申し訳ない」とタナカさんはひどく恥ずかしいようであったが、「これも何かの縁」と思いついて持ち合わせていた名刺を渡して自己宣伝させてもらった。
 
 〔稀に出た名古屋の街中で不思議な出会い(?)もあるものだ。どうも自分にそっくりな人物が県内でいろいろとやっているらしい。〕他人の空似というものだが、世の中に三人はいるという自分とそっくりな顔を持つ人物が意外と近くに暮らしているようだ。〔しかし三人とも不細工なその顔に不満なんだろうな〜。〕と思うと、ちょっと愉快に思えてくるのだった。
 
 不思議な気持ちになりながら、その場を後にして目的としていたギャラリーへやってくると、今度はそこで受付をしていた女性から挨拶の後に話しかけられた。
 「以前にお見かけしたことがあると思うんですけど‥。」
 「‥え?」〔俺に似てる人って世の中に何人いるんだ?‥いや、もしかして俺も有名になった?!〕
 聞けば同じ大学の同じコース出身の後輩でした。
 「ハハハ‥。」〔そりゃあ在学中に目にしてるはずね‥。〕再び胸を撫で下ろす良く晴れた一日。
 
 私のそっくりさんへ、いかがお過ごしですか?
 
 

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