人生という日常の合間に見つけた平凡な感動や、過ぎ去る時間のぼんやり思惑。 人生紀行

 
No.42 ネズミ警報発令チュー(1) 2004.11. 1

 深夜、いつものアトリエ部屋で絵を描いていると屋根裏から音がする。
 ゴソゴソ、コトコト‥。カタカタカタ‥。
 通常らしからぬ事態に、私は筆を止めて息を潜めた。
 カサ‥、タタタタ‥タ。カサカサ‥。‥。タタタ。
 屋根裏の音は右へ左へ縦横無尽に移動しては、気まぐれに止まることを繰り返しているようだ。それはとても軽快な動きで、どうやら小動物‥おそらくネズミのようだ。ずっと以前にもネズミが出没したことがあったから、きっと間違いないだろう。今度の来襲はざっと10年ぶりにはなる。
 大体の予想がついたので未知なるものへの恐怖心はなくなったが、気が散ってしかたない。
 それに何やら物をかじる様な音が時々するようで段々不安になってきた。前歯が伸び続けるネズミは、その歯を自ら削り減らすために色々な物をかじる習性があり屋内などではコード類をかじり出すことがある。屋根裏にあるコードと言えば100Vの電源配線で、それにかじりついたネズミが感電&ショートして発火、火事に至るという話を思い出したのだ。
 気が散って集中できないことも厄介だが、火事でも起こされたら洒落にもならない。これは早急にネズミを撃退する必要がある。
 ずっと前に使用した「ネズミ捕り」が屋根裏に置いてあることを思い出し、早速屋根裏に向かった。はしごを使って屋根裏に上がると、屋根裏に突き出した梁と乱雑に置かれた段ボール箱の間に一瞬チラリと黒い塊が逃げていくのが見えた。大きさは中くらい(洒落じゃなくて)のネズミのようだ。
 〔ムムー、待っておれよ!〕
 ネズミ捕りを一度下ろして、おびき餌となるサツマイモ片を取り付けた。ネズミ捕りは旧来式の餌に触れるとカゴがしまるというタイプで、簡単で実に合理的な仕組みのなんともアナログな罠だ。再び屋根裏に上がり、物影になるような場所にカゴを仕掛けてはしごを下りた。
 
 陽が昇り、昼が過ぎたあたりにアトリエ部屋に戻ってくると、また屋根裏で音がしているが今度の音源は移動していない。屋根裏の一箇所でカラカラと金網を揺らすような音が響いている。
 〔しめしめ、どうやら、掛かったみたいだナ。〕
 
ネズミ警報発令チュー(2)へつづく
 

旅人彩図 『人生紀行』 前へ 目次 次へ