人生という日常の合間に見つけた平凡な感動や、過ぎ去る時間のぼんやり思惑。 人生紀行

 
No.37 夏の亡霊(2) 2004. 8. 7

 同じ学年内で早くから付き合っていたAとその彼女は当然共通の友人も多く、私もAとその彼女と一緒に遊んだ一人だった。
 卒業後もAとその彼女は付き合いが続いている‥、と噂に聞いていたので「既に数年(5年以上?)に渡り付き合いが続いているのだから、就職したAと彼女の結婚も近いんだろうな。」と私は勝手に思っていた。それほど二人は仲がよく、仲間の誰から見ても「お似合い」であったし、みんなにとって「二人が付き合ってる状態」も「共有してきた心地よい感情」もずっと続くであろう「あたりまえ」のようになっていた。
 だから今日Aと一緒にいる女性は、私にとっては「あたりまえ」ではないことだった。
 
 数年間に起こる変化はあって当然であるにもかかわらず‥。
 
 Aは別段その女性に作品や他の事を説明することもなく、連れの女性はこういう場所と雰囲気に慣れていない様子でAの近くで黙って立っているだけ‥。それは何か二人の間に「そういう空気」があることを感じさせた。やはり連れの女性は、現在のAの彼女のように見える。
 普段なら二人に声をかけて最近の仕事のことやお互いの紹介などで3人で楽しく会話ができたかもしれない。しかし、そのときの私にはAの学生時代の彼女のことや共に遊び学んだ仲間のこと‥、たくさんの思い出があふれ出して胸の詰まるような気持ちに自分からAたちに声をかけることができなかったのだ。今、Aが心の中で私に伝えようとしていることを思うと、かける言葉がどこにも見つからずただAからの声を待つしかなかった。
 
夏の亡霊(3)へつづく
 

旅人彩図 『人生紀行』 前へ 目次 次へ