人生という日常の合間に見つけた平凡な感動や、過ぎ去る時間のぼんやり思惑。 人生紀行

 
No.33 縁卓を囲んで(3) 2004. 5. 20

 ‥ところが、再び友人に電話をかけ直し「さっきは断ったけど、せっかくデザインを考えたから、お店の人に判断してもらおうと思う。」そう言って依頼主である店長さんのメールアドレスを聞きだすと、考えたデザインの説明とその画像、自分の制作環境や現状など簡単なプロフィールを添えてメールを送信した。
 どうして思い直したのか‥?素直に現金収入が欲しかったという思いもある。それから、たとえ駄目であってもそれを自分で決め付けるよりも他人から駄目だと言われた方のが価値があるとも思ったこと。あとは、ここまで考えたことを知らせておきたい気分だった。
 すると次の日、その店長さんから電話が入った。「頼みたいと思うので、一度店を観に来てください。」
 「ええぇー?!本当ですか?」
 私が送信したメールの内容には正直に書いた「貧弱な制作環境」と「プロの方にちゃんと頼んだほうがいいよー」というメッセージで満ちていたにもかかわらず、「頼みたい」と‥。意外な答えに驚きつつも、私は打ち合わせの為に早速お店に向かった。
 車で1時間程、チェーンの飲食店などが軒を連ねる中にそのお店もあった。店の名は「上々(じょうじょう)」。お店自体が表の通りからは隠れるようにあり、のれんの入り口だけが通りからちょこんと見えている。どちらかといえば隠れ家的な雰囲気だ。
 まだ準備中の店内へ緊張しながらも入り込み「店長さんは‥」と尋ねると、若い男性が出てきて「店長のSです。」と紹介を受けた。聞けば年齢は私の一つ下だ。「店長」という肩書きから想像していた人物像よりも自分に近い年齢で多少面食らったが、考えてみれば自分も30歳を越す身だ。普通なら幾らかは上の立場で主任やチーフ・店長といった役についていても何ら不思議ではない。(自分がいつまでも幼いことをしているだけのことなのかな‥。)
 
縁卓を囲んで(4)へつづく
 

旅人彩図 『人生紀行』 前へ 目次 次へ