人生という日常の合間に見つけた平凡な感動や、過ぎ去る時間のぼんやり思惑。 人生紀行

 
No.32 縁卓を囲んで(2) 2004. 5. 9

 まずは木材の調達先と価格の調査だ。インターネットで検索したり、近くの材木屋へ足を運んだりして調査するが、思っていた通り大きくていい木は高い。
  大きな天板を一枚の銘木(めいぼく:形・色・木目・材質が趣を持つ木材の総称)板で作れば見栄えもよく工期短縮だが、天板の材料だけで大幅に予算オーバーだ。今回の予算では小さな材料を継ぎ合わせるしかないが、継ぎ合わせには手間(工期)がかかる。継ぎ合わせのパーツ(部品)を少なくしながら、価格を抑えて‥と、ここらへんのバランスが難しい。
 調達できる木材と価格に目星を付けると、今度はそれを基にデザインを練る。
 使用されるお店の様子を知らずにデザインするのも乱暴な話だが、あくまで「調達可能な材料から今の自分に出来る案の模索」なので、よくある感じの座敷のお店を想定することにした。飲食店での使用なので、仕出し・片付けが容易に行なえて衛生的に保てることが重要だ。それから今の私と設備で可能な加工精度、制作において一人で扱える重量の限界なども充分加味しなければならない。
 材料・工程(技術)・使用環境・形態・価格‥、総合的な視点を常に持ちながら形を練る。これこそがデザインといわれる分野の本分なのだろう。
 幾つかの案を絵に描き出してみて思うことは〔‥やはり、引き受けられる仕事ではないな‥。〕ということだ。多くの制約と限界のなかで私が考え得た座卓の形はお粗末なものだった。私なんかより、少し予算を超えてでも懇意にしてくれるプロフェッショナルの方を探すか、インターネットオークションや一般的な家具屋で既に出来上がっている掘り出し物を探した方がいい買い物ができる。
 
 ここで2日ほど時間が過ぎていたので、その旨「充分検討したけど、やっぱり無理。」を友人に電話で伝えた。電話の向こうでは明らかに友人の声のトーンが落ちている。「引き受けられない理由」を伝え、がっかりする友人には納得してもらい電話を切った。
 
   ここでこの話は終わるはずだった。
 
縁卓を囲んで(3)へつづく
 

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