人生という日常の合間に見つけた平凡な感動や、過ぎ去る時間のぼんやり思惑。 人生紀行

 
No.28 2月29日の偶然(3) 2004. 3. 21

 高校美術部での想い出話に少し花を咲かせるとOはまだ仕事が残っていたので、互いに住所を交換しあい「個展などのときは連絡を取り合おう」と約束してそこで別れた。
 帰り道、今日の偶然の再会に心浮かせながら再び懐かしい高校時代の思い出の余韻に浸る。
 Oはあの頃はもう少しハチャメチャな雰囲気があったような気がしたが、随分と物腰が柔らかくなったようでこの10年でさぞ色々なことを経験したのかなぁ‥としみじみ思う。私も彼の眼にはさぞ歳をとり、印象が変わったように映っただろう。
 それから思い出すのは、私と同学年でやはり美術部員だったTのことだ。
 彼(T)とは小学校・中学校と同じ学校で、同じ高校に進学した。美術部で顔を合わせてはちっとも冴えない高校生活を互いに愚痴り合ったり、よく読んだ漫画の話や、将来のことなどいろいろなことを語り合ったTは親友の一人だった。
 思い出すTの顔はいつまでも若い頃のままだ。なぜならTはもう既にこの世に生きておらず、死者は歳をとることはない。
 小中高と同じ学校に通ったTとも高校卒業以降は進路も違って当然のように会う時間は減り、大学を卒業する頃には年賀状のやりとりくらいになっていた。それから年賀状すらも途絶えて25歳を迎える春に、私はその知らせを人伝いに聞いた。それも、Tが亡くなってからしばらく(一年近く)後だった。
 知らせが直接入らなかったのは当時は私が地元から遠く離れて暮らしていたせいもあれば、Tの死の原因が事故や病気ではなく自殺であったことにもよるだろう。
 
2月29日の偶然(4)へつづく
 

旅人彩図 『人生紀行』 前へ 目次 次へ