人生という日常の合間に見つけた平凡な感動や、過ぎ去る時間のぼんやり思惑。 人生紀行

 
No.14 私をどぶろく祭りに連れてって(4) 2003.11. 12

 今、法被男のやかんから湯飲みに注がれるとろりとした真っ白な液体こそ念願のどぶろくだ。ワクワクしてどぶろくをゆっくり口ですすると、ふわーっと酸っぱい芳醇なお酒の味が口いっぱいに広がった(味は渋みと酸味が独特で、市販の濁り酒に近い感じ)。苦労してやって来ただけに、おいしいー!やっとどぶろく飲めました。
 念願のどぶろくをすすりながら、祭りのことなどを聞いていると「まぁまぁ上がりなさい。」と社の横にある蔵小屋に上げてもらい、おつまみを口にしながら話し込むこととなった。
 ここのどぶろくは毎年村内で獲れた新米を使い、9月下旬から10月15日まで仕込んで作られる。仕込みをするのは毎年町内の5世帯で持ち回りだ。
 仕込み始めてからは、毎朝晩にもろみをよくかき混ぜるというのが氏子当番の仕事で、例年約25リットルのどぶろくが仕込まれる。そして祭り当日の朝、そのどぶろく内に残る米粒を石臼で挽いて完成となるのである。
  どぶろくの味の良し悪しは仕込み期間(3週間)の季候(特に温度)に大きく影響を受けるようだ。暑い日が多いと発酵が進み過ぎて酸っぱくなってしまい、逆に気温が低いと発酵が順調に行われず苦くなるらしい。今年の蔵欠のどぶろくの出来はいい具合とのことで、アルコール度数は12度前後。短期間でできたお酒だけあって、フレッシュでフルーティーな味わいだ。
 どうやら祭りのメインの時間は午後2時あたりだったらしく、どぶろくを神前に供えてお祈りの神事が行われる頃には40〜50人の人が集まり、多くの人がどぶろくの振る舞いを受けていたそうだ。5時を過ぎた現在の参拝客は私一人だけで、町内の祭り当番の方と二人きり。お互いにどぶろくをお酌しあって村や祭りのこと岡崎の話などしていると、すっかり日が暮れてしまった。
 小屋に小さな蛍光灯が一灯あるだけで、他に灯りのない境内と参道は完全に闇に埋もれている。また一杯のどぶろくを静かに口にしていると‥、真っ暗な参道から足音が聞こえてきた。
 
私をどぶろく祭りに連れてって(5)へつづく
 

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