人生という日常の合間に見つけた平凡な感動や、過ぎ去る時間のぼんやり思惑。 人生紀行

 
No.7 額作りと秋の虫(2) 2003. 9. 13

 何軒もホームセンターをはしごして、材料や価格を比較・検討しながらデザインを練り、少し加工した木材を眺めてみては再検討して、またホームセンターを巡る‥。そんな孤軍奮闘の毎日がしばらく続いて額のデザインが大体決まってきた。試作品もできあがりつつあるさなか、ふと不安になった。
 メーカー製のオーダー額と、自分の額にはどれくらいの差があるのか?現在自分の進める仕事に間違いはないか?再度じっくりと考察の必要がありそうだ。買い物ついでに絵やオーダー額を扱っている店を覗いてみた。店内にはずらりと有名作家の版画作品などが額装されて並んでいる。以前直接お会いしたことのある内田新哉さんの絵も本人のプロフィールパネルつきで並べられていた。
 〔やっぱ、スゲーな〜。〕と心底感心して、額を詳しく調査。中に入れるマット紙や額の値段も再び調査して店を後にした。
 店の外に出るともう夕暮れだった。どんよりとした雲が空を覆っている。明日は雨だろうか?家に着いて荷物を下ろすと、少し疲れてしまった。
 あまりにもメーカー製の額は出来が良かった‥。仕上がりの美しさ、種類の多様さ、その質に対する値段‥。少し高くともお金を払い額を見立ててもらってオーダーする価値は十分にあると感じた。当然と言えば当然である。むこうはその道のプロだ。メーカーに培われた技術とセンスはにわかに額作りを思い立った私に簡単に追いつけるものではない。ただ、以前に目にしたときはまだ額作りを始めていなかったので自分に審美眼が備わっていなかったのであろう。
 自分が手がける制作途中の試作品が急にみすぼらしく見え、ここしばらくの奮闘が無駄に思えて、落ち込んで、自信を無くす。自分の絵も駄目に思えて、これからの人生さえも悲観しつつ、やむを得ず不貞寝である。
 
額作りと秋の虫(3)へつづく
 

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